「若冲さん」 15 20211105
描くことにのみ専心し、日に日に痩せこけていく四代目の様子は、さながら修行僧だった。短髪でいつも着ざらしの風貌が、そう思わせるのに一役買った。
彼が付き合いを持つごく僅かな人間も仏道方面ばかりゆえ、余計に僧っぽさは増した。
絵道具一式を譲ってもらったのが相国寺だったことからわかる通り、出不精の極みたる四代目も、禅寺通いだけは以前から絶やさない。
とりわけ色付きの絵を描き始めてからこのかた、四代目が相国寺の門をくぐる回数は顕著に多くなった。
「まったく現金な御仁だて」
相国寺の奥の間でそうひとりごちたのは、大典顕常である。四代目が寺を訪れ対面するのは、決まってこの僧だ。
京五山の一つを占める大寺院の有力者にして、仏法のみならず儒学も修めた当代切っての知識人として知られる高僧のもとへ、四代目はこのところ日を置かず繁々と通ってくる。
絵を描くことで信心が深まったのかとも思うが、そうじゃない。大典には四代目の魂胆がよくわかっていた。
「あやつは我らが寺を、眼の肥やしを得る場としか思っておらんからな」
そう、四代目の目当ては明らかだった。相国寺が収蔵する大量の舶来名物を見せてもらうことに尽きた。
寺にごっそり眠っている本場中国の名画への眼通しを、四代目は足を運んできては大典にねだるのだ。
「日和の感じからして、あやつまた今日あたりやって来るぞ。ひとつ先回りして見繕っといてやるか」
大典はみずから座を立ち、書画骨董を大量に収めた室へと向かった。いそいそと歩を進める背中に高僧の威厳は影を潜め、同好の士の到来を待ち望む歓びのほうが強く立ち上っていた。