「若冲さん」 24 20211114
一、二、三……。
画面の隅々にまでいる鶏の数を、ユウは指差し確認しながらかぞえていった。と、それは十を優に超え、十三羽にまで達した。
たくさんの鶏が群れているのだから、この画を仮に「群鶏図」と呼ぼう。絹布を張った画面はかなり大きいものだとはいえ、十三羽もいればやはりぎゅうぎゅう詰めだ。鶏たちが身体を重ね羽根を擦らせ合い、蠢いている気配を画面から感じてユウは怯んだ。
「なんだか怖い、です……」
言葉が口を突いた。
と同時にユウは両眉を上げて、口元を手のひらで隠し、
「あの、いえすみません、失礼を。つい、思ったままのことを」
さすがに無遠慮過ぎたと慌てるユウに対して、若冲は視線こそ絹面から離さぬものの、口の端をすこし緩め、
「いっこう構わんよ。むしろいい感想を聴けた」
と、やさしく云った。くわえて、
「怖いってのはあれかい、どんな感じなんだ? できれば教えてほしいんだが……」
とも。
ユウは胸の内にあるものを一つひとつ身外に並べるようにして、「怖い」の正体を伝えた。
この鶏はただ布の上に描かれたぺたんこのものなのに、互いに自分の居場所を主張し合ったり、相手を懐柔しようとしたりして、たいそう喧しい。単なる平面の画から動きを感じ声を聴くとは、自分が狂してしまったか、舶来の魔術にでも遭ったかと思えて、怖かったのだと。
「それはつまり、生命がこの画の中にあると感じた、そういうことでいいのか?」
若冲が今度はまなざしをユウのほうへじっと向けて問うた。
「まあ、そう、かもしれません」
気圧されながらもユウが応じると、若冲はそっと眼を伏せ「よかった……」とつぶやく。
「絵を通してようやくいま、生まれて初めてわたしは、人と話せたような気がするのだ」