「若冲さん」 49 20211209
相国寺の大典禅師から、若冲はこうして首尾よく三十幅の画を取り戻した。
間髪入れずその画を錦通りに運び込み、看板風に取り付ける算段をつけていく。
どうせ店も暇で、手が余っておるだろう?
そう弟を説き伏せ、桝源の若い衆を二、三人借り出し、設置を手伝わせた。
通りの要所要所の店前に、簡便な木製の立板をつくり、そこに画を貼り付けていく。
青物屋の前には緑のしたたる画が掛かり、豆腐屋の前には白色が際立つ画が掛かった。
川魚専門の屋号の前には、鮎が生き生きと泳ぐ画だ。
なるほどこれなら、絵解きで店の中身を教えてもらえてわかりやすい。
絹地に贅沢な顔料をたっぷり用いて描かれた画はどれも、陽の光を浴びてよく輝いた。
通りの全体がぐっと華やいで、漫然と歩くだけでも眼が愉しい。
桝源の前当主、伊藤若冲が長年かけて描いた画によって、錦通りはここに彩られた。
「壮観、ですね。美しい。美しいです、若冲さまの画」
東の端に若冲と並んで立って通りを眺めわたしていたユウが言う。
「さてこれですこしは客寄せの足しになるかどうか。様子を見てみよう」
若冲もまんざらではない顔で、そう応じた。