「若冲さん」 48 20211208
寄進したすべての画を取り戻し、錦通りを盛り立てる看板代わりにしたい。
若冲は自分の目論見を、さらさらと大典に話して聞かせる。
若冲の言葉がいったん尽きた。
瞼を半ば閉じ、身じろぎひとつしなかった大典が、カッと目を見開く。
いかにも気難しい高僧といった振る舞いだが、どこか演技めいてもいる。
あの三十幅の画、出来や価値は俄かには判別できぬ。
しかし、お前さんが生涯を賭したものであるのはたしかだろう。
それを仏に捧げるよりも、古馴染みの者たちの腹の足しに使いたい。
そう言っておるわけだな? 二言はないか?
大典は目を大きく開けたまま、そう凄んできた。
若冲はなんの屈託もなく「その通り」と応え、ぜひ早急にと注文を加えた。
張り合いがないとあきらめたのか、大典は白々しい脅しの表情を引っ込めた。
そうしてすぐに僧を呼び、若冲の画をまとめて荷にするよう指図した。
手配を済ますと若冲に向き直り、こう告げた。
お前さん、ずいぶん視野が広がったものだ。
それもこれも、画を充分に成したからこそなのだろう。
いまさら自分ごとの欲が一切ないだけに、他に目を向けられるようなったのだな。