「若冲さん」 18 20211108
ほう、生命とな。
他事のすべてを面倒のひとことで追いやりながら、おまえが画描きに執心する理由。それは、描くことで生命を生み出したいからと言うのだな。
絵画の御用を一手に引き受けておられる狩野派のように、伝来の絵の型を見事になぞり、図柄に宿る精神を引き継ぐことに喜びを見出すのではなく? または、現実にある物物や権威あるお方の顔貌をそっくりに写し、似せ絵の楽しみを味わったり名声を得たりするためでもなく? はたまた、優れた工芸が放つ美しさを己の手でつくり出したいというのでもなく?
ただただ生命を感じるために、おまえさんは画に賭けるというのか?
まったく随分な奇想を抱く御仁であるな。だがこれで、仏の教えに響き合う考えでもある。
描くことで生命を生み出したいという四代目の主張を聴いて、大典はかように思った。こういう外れ者がいるのも、またよしか。
それで、だ。おまえは絵を描くためなら、京五山のひとつたるこの相国寺までも大いに利用してやろうとの魂胆なわけか? 秘蔵の舶来物を我に引っ張り出させて、己の絵の肥やしにしたいというのだな?
大典が改めて問うと四代目は、
「まあ……、はい。できればそうしていただきたいのです」
恬淡として応えた。
「絵に向けるその熱意、仏道へと振り向ける気はないのか?」
「いえ……、特には」
「ならもうよい、わかったわ。画のほうは望む通りに見せちゃる。今回はなんだった、広い風景を描いた山水画ではなく、ぐっと物に寄った画が見たいのだな。見繕ってみるわ」
どれ探してくるかと座を離れかけた大典は、ふいに思い直していま一度四代目と対面し云った。
「おまえさん、どうやらもう揺らがぬよな。ならば画に専心しやすいよう、いっそうちの居士となられよ。
仏道を究めよなどとは言わぬ。かたちだけのことだ。いますぐとはいかぬだろうが早々に桝源の四代目当主の立場を後進に譲って、在家の求道者として生きることとし、存分に画を描けばいいではないか。
それであれだ、居士となる覚悟があるというなら、名前くらいいますぐ授けてやってもよいぞ」