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第三十三夜 「法学を学ぶのはなぜ?」 森田果

法ルールの基本的な機能は、インセンティヴの設定を通じて人々の意思決定・行動をコントロールし、社会を一定の方向へ導くことである。


 多くの大学には法学部が当たり前にあって、そこへ通うと「つぶしがきく」などと言われる。それはどういう意味なのか。ふつうに考えると就職に有利ということなのだろうけど、ほんとうはもっと広いことを指していそう。法学を知ることは、最も汎用性の高い思考ツールを得ることであり、それが法学を学ぶ意味や意義である。
 そのあたりを、改めて考えることのできる一冊がこれ。

 法とは何か? 改めて問うに、本書では「目的達成のための道具」であると規定する。
 ここでいう目的とはなにかといえば、よりよい社会の実現である。
 つまり法とは、よりよい社会を実現するために活用されるべき有効な道具ということになる。
 法が「道具」であるなら、しっかりと機能を果たしてくれなければ困る。そのため法は多くの場合、「要件」と「効果」を組み合わせたかたちをとる。
 要件が充たされたとき、何らかの効果が発動すると定めているわけだ。
 殺人罪を例にとれば、「人」を「殺す」という要件を充たした場合、「懲役刑」や「死刑」などの刑罰という効果が発生するというしくみになっている。

 「要件」と「効果」の組み合わせでできた法は、社会にどんな影響を及ぼすか。法はインセンティヴを発動させることで、社会をよりよい方向へ動かしていく役割を担っていると考えられる。
 インセンティヴとは、訳せば「誘因」。人の意思決定や行動を変化させるような要因のことをいう。法は二種類のインセンティヴを生む。何らかの意思決定や行動を促すポジティブなインセンティヴと、何らかの意思決定や行動を抑止するネガティブなインセンティヴだ。
 つまりは「アメ」と「ムチ」。先に見た殺人罪なら、刑罰という制裁が下るのだから、ネガティブなインセンティヴが発動するとみなせる。

 このように法は、よりよい社会の実現のために日々働いている。
 ただし、よりよい社会とは何かをはっきり定義することはできないし、そのイメージは人によって異なるので、科学のようにすっきりとした答えを持つことは叶わない。解釈や適用の問題もあるので、法とは絶えず揺れ動きながら使われる道具である。
 謹厳で融通が利かないといった法のイメージを人間味あふれるものへと、一読、鮮やかに刷新してくれる。

「法学を学ぶのはなぜ?」 
森田果 
有斐閣

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