「若冲さん」 4 20211025
桝源では、当主の四代目抜きでも回るべく、すべてが算段されていった。
四代目には年端もいかぬユウという使用人がひとりつき、食事その他の一切を好きな時機にするよう言い渡された。青物問屋という商売柄、店の全体は極端に朝が早い。商いに関わらぬ者がとうてい合わせられるような時間割ではないのだ。
完全にひとり蚊帳の外に置かれた格好の四代目である。が、そのことを表立って気にする素振りは見当たらぬ。機嫌の波風はほとんど立たぬまま、至って平穏に過ごしているように感じられた。
それで身近に仕えるユウも、つい気安く四代目に接した。いつぞやは彼があまりに長く縁側に居座り続けるものだから、これでは雑巾掛けのひとつもできぬと苦情をぶつけてしまった。
とはいえその程度で座を動かす四代目でもない。庭の鶏を眺めるのに夢中でいっこうに縁側をどこうとしない彼をそのまま捨て置いて、ユウは空いている部分から雑巾掛けを強行し始めた。
固く絞った雑巾を手に、四つん這いになって板の上を行ったり来たり。残るは四代目の尻の下だけとなった。
ユウが四つん這いのままで、
「恐れ入りますが、どうぞどいていただけますよう……」
口調は崩さぬまでも目で凄んで見せると、
「できれば、したくない、のだが……」
と口中でもごもご言いながら、四代目はようやく室の奥へと引っ込んだ。