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第6回文学ワイン会「本の音 夜話」ゲスト:穂村弘さん

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 9月15日(火)に銀座にあるENOTECA MILLEで開催されました第6回文学ワイン会「本の音 夜話」のイベントレポートを、スタッフよりお届けいたします。今回のゲストは歌人の穂村弘さん。現代短歌の第一人者として独特の感性で短歌を発表し続け、さらにユーモアあふれるエッセイも大人気です。ふだんお酒はそんなに飲まないという穂村さんが、ワインを片手に語る「夜話」とは……?

まずは、お酒と短歌にはどのような結びつきがあるのでしょうか。そこで穂村さんが取り出したのは『岩波現代短歌辞典』。近現代の秀歌がおさめられ、歌語の意味や用法が詳しく載っているこの辞典、みなさんはご存知ですか? 「酒」を引いてみると、大項目に分類され、数多くの例歌が載っていました。「つまり、酒と短歌との相性はすごくいいということです」と穂村さん。実際に詠まれた“酒の歌”を例にして、お酒と短歌の関係を丁寧に解説していただきました。

 

*紹介された酒の歌*

あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る               大伴旅人
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり             若山牧水
手づくりの葡萄の酒を君に強ひ都の歌を乞ひまつるかな              山川登美子
昨夜ふかく酒に乱れて帰りこしわれに喚きし妻は何もの               宮柊二
大方はおぼろになりて我目には白き盃一つ残れる                  石榑千亦
二日酔いの無念極まるぼくのためもっと電車よ まじめに走れ            福島泰樹
わたしいまね かえってすぐね げんかんでね だいのじでね でんわしてるの    円満
ニホンノヒト、ニホンノヒトと慕はれて日本代表の気分で酒飲む           村田一広
人はみな身にそれぞれの地獄もつLiebfraumilchなるワインは抜けず         伊津野重美
四〇〇字弱のメールに「酔っぱらっちゃって」と五回書いて送信           山川藍天

 

最も古いとされる“酒の歌”は「あな醜賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る」(ああ醜い。利口ぶって酒を飲まない人をよく見ると猿に似ているではないか)。大伴旅人は『万葉集』を編纂したとされている大伴家持の父なので、いかに“酒の歌”に歴史があるかがわかります。

お酒の扱われ方もさまざまで、歌によって特徴が見られると穂村さんは言います。たとえば若山牧水の「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」。毎日一日一升のお酒を飲んでいた牧水は、お酒を神聖で荘厳なものとして捉えていたようです。「白玉の」は「真珠のような」という意味。「真珠のような歯に染み渡る秋の夜に飲む酒は静かに飲むものである」と詠っています。それと比べ、石榑千亦は「大方はおぼろになりて我目には白き盃一つ残れる」(だいたいのものがおぼろげになり私の目には白い盃だけがうつる)と詠っており、酔っぱらって視界があやふやになってもなおお酒を求めるようすが描かれています。

それでは、お酒を飲みながら短歌を詠む、ということはあるのでしょうか? 穂村さんはここにひとつのお酒の力を説きます。「酔っぱらうことでたがが外れて、新しい世界を見ることができます。酔った頭が自分の想像をこえる、思いもよらないアイデアを生み出すことがあるということですね。しらふではできない表現が、お酒が入ることでできるようになる。うらやましい!」

さてそんな穂村さんが詠む“酒の歌”は、いったいどのような歌なのでしょうか。

 

*紹介された穂村さん作の短歌*

甘酒に雪とけてゆく なぜ笑ってるか何度も訊かれる夜に
銀紙のかたまりっぽくみえたのは特別な夜の子供のお酒
「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
クロスワードパズルの穴をぶどう酒係(ソムリエ)に尋ねし君は水瓶のB
酢になったテーブルワイン飲み干せば確信犯の眼差し宿る
「童貞に抜かせちゃ駄目よシャンパンの栓がシャンデリアを撃ち落とす」

 

「よく『実体験に基づいているのですか』と聞かれるんですが、まったくそんなことはありません。妄想です」と穂村さん。「1つめの『なぜ笑ってるか何度も訊かれる夜』も3つめのやりとりも、こんなふうになったらいいなという憧れです」。しかしあまりお酒の飲めないという穂村さんでも、“酒の歌”はこんなにあるようです。「これらはすこし昔の歌ですね。お酒が飲めないからこそ、お酒がもたらす“スイーツ感”を追い求めていたんです。今ではこんなの詠めないです」と笑います。

最後は参加者の方々から寄せられた“酒の歌”を講評。穂村さんは「最近は誰かの詠んだ短歌を読んでいるときがいちばん楽しい」そう。みなさんの短歌はどれも力作揃いで、思わずうなるほどでした。

お酒が飲めないからこその視点で語られたエピソードの数々。「お酒ってなんでこんなに覇権を握ってるんですかね?!」という言葉が飛び出す場面もありましたが、おいしいおいしいワインを片手に、時間はあっという間に過ぎてゆきました。

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(文責:庄子真汀、写真:黑田菜月)

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